ー10年前ー
それは、雪のちらつく寒き日のことでござった。
小さき娘・澄音孤児であり教会に引き取られておったが、
村の子らに「南蛮人」と
蔑(さげす)まれ、追われる
まま山の中へと逃げ込んだのでござる。
「ひっ……来ないで、来ないで……!」
幾度も転び、服は泥にまみれ、
手足は冷えきっていた。
だが、誰も助けてはくれぬ。
叫べども届かず、木々の間を
さまよううち、道に迷い、
陽はとうに落ちておった。
歩けど歩けど、どこにも
光は見えず
雪がちらほらと降り始める。
しんと静まる山の中、澄音は
力尽き、その場にうずくまり
ついには倒れてしまう。
「……さむい……おかあさん……」
遠のく意識のなか、澄音は小さくつぶやき、
目を閉じた――。